炭酸アパタイト骨補填材

【概要】
 骨の無機主成分は炭酸基を6~9%含む炭酸アパタイトです。炭酸アパタイト粉末は容易に調製できるのですが、身体の中では粉末は炎症反応を惹起します。一般的にセラミックス粉末は焼結してブロックや顆粒としますが、炭酸基を含む炭酸アパタイトは熱分解されるため焼結できません。
 歴史的には1970年代に骨の無機主成分である炭酸アパタイトから炭酸基を除去した水酸アパタイトが調製され、水酸アパタイトは焼結できること、水酸アパタイト焼結体は骨伝導性(骨欠損部に埋植すると、既存骨から骨が伸びてきて材料表面に結合する性質)を示すことが発見されました。
 (ちなみに水酸アパタイトの発明がバイオセラミックスの始まりと言われています。)
 しかしながら、自家骨と比較すると水酸アパタイト焼結体は骨伝導性に劣ります。また、自家骨は骨に置換されますが、水酸アパタイト焼結体は骨に置換されないという重篤な欠点があります。そのため、自家骨採取に伴う健全部位への侵襲があるにも関わらず、骨再建術においては自家骨移植が第一選択とされてきました。
 九州大学では炭酸カルシウムブロックなどの前駆体を用いた溶解析出反応によって水溶液中で炭酸アパタイトブロックを調製する方法を見出し、国際特許を取得しました。
 炭酸アパタイト骨補填材は、水酸アパタイトに比較して圧倒的な骨伝導性をしめし、自家骨と同様に骨に置換されます。
 これまで荷重が付加されるインプラントに使用できる骨補填材はありませんでしたが、2017年12月24日に炭酸アパタイト骨補填材は荷重が付加されるインプラントを含め、すべての歯科・口腔外科領域で用いることができる骨補填材としてPMDAから承認を得ました。また、2018年2月から株式会社ジーシーより「サイトランス グラニュール」として販売されました。


自己硬化型細胞遮断膜
【概要】
 細胞遮断膜はGTR(Guided Tissue Regeneration)やGBR(Guided Bone Regeneration)で用いられる遮断膜であり、欠損部への細胞の遊走を遮断することによって、所望の組織を再生する方法です。乳酸-グリコール酸共重合体膜やコラーゲン膜が臨床応用されていますが、二次元膜で三次元形態の骨欠損部表面を被覆することに原理的な問題があります。
 生体材料学分野では顆粒セメントを開発しています。これは炭酸アパタイト顆粒、水酸アパタイト顆粒やβ型リン酸三カルシウム顆粒をリン酸水素カルシウムで橋掛けして硬化させる顆粒セメントですが、顆粒サイズを小さくすると、細胞遮断膜に最適なセメントが調製できます。
 生体材料学分野では、このセメントを自己硬化型細胞遮断膜として、その有用性を検討しています。

チタンインプラント表面修飾
【概要】

顆粒セメント
【概要】
 骨補填材は「ブロック」「顆粒」「セメント」に区分されます。ブロックの問題点は形態形成であり、骨欠損部に合わせて形態形成することは容易ではありません。顆粒の場合、形態形成は不必要ですが、欠損部からの移動が問題となります。それに対して、セメントは骨欠損部で硬化するため、機能性に優れるのですが、多孔体化できないという問題があります。顆粒セメントは粉末ではなく、顆粒を硬化させることによって骨欠損部で硬化させて、多孔体を形成する新しいタイプの骨補填材です。
 生体材料学分野においては、炭酸アパタイト、水酸アパタイトやβ型リン酸三カルシウム顆粒をリン酸水素カルシウムで橋掛けして硬化させる顆粒セメントを開発しています。

PEEKへの骨伝導性付与
【概要】
 PEEK(polyetheretherketone ポリエーテルエーテルケトン)は高い耐熱性、機械特性を備え、エンプラの性能を上回るスーパーエンジニアリングプラスチックとして知られていますが、骨と力学的特性が近く、生体材料としても承認されています。しかしながらポリマーですので、骨伝導性はありません。整形外科の脊椎ケージなどに使用する場合、骨伝導性がないと固定性などで問題が発生します。
 生体材料学分野ではPEEK表面を粗面化し、かつ、表面にリン酸基を修飾することによって滑面チタン以上の骨伝導性をしめすPEEKを開発することに成功しました。

チタンインプラントへのコーティング
【概要】